内定承諾がない場合の対応について②
弁護士 小島梓
前回の「内定承諾がない場合の対応について①」のコラムにおいて、内定承諾がない人につき、内定を取り消したいと考えた場合、労働契約の解約を適法に行いうるかどうかを考える必要があるとご説明しました。
そこで、本コラムでは、解約権行使が適法と言えるか否かの基準などについて説明していきたいと思います。
この点につき、判例(最高裁昭和54年7月20日判決)において「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」という判断基準が示されています。
この基準に照らしますと、本件では、内定通知を出した後、承諾する旨の連絡がない人に関して内定を取り消すことが「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができる」と言えるか否かを考えてみる必要があります。
個別の事案や状況によるというのが大前提ではあるのですが、会社からお願いした期限内に内定承諾する旨の通知がないという事態が予想できないというケースはほとんどないのではと思われます。社会人としてどうかという問題はあるものの、承諾通知が期限経過後に送られてきたり、通知送付が後手後手になっているだけで、入社する意思はあるというケースは珍しくありません。一時的な体調不良等もありうるところです。
そうなりますと、内定承諾の通知がないという一事情をもって内定を取り消すことが適法と言える可能性は低いと言えます。
ただ、内定承諾の通知が来ないというにとどまらず、諸事情から、内定を出した相手が行方不明になっている可能性が高い状況など、入社する可能性自体が著しく低くなっているようなケースでは、内定取り消しを適法に行いうる場合もあると思います。
ご説明してきたように内定通知を出した段階で、条件付きとはいえ労働契約が成立しますので、各段階で慎重な判断を要することを念頭に入れていただき、判断に迷うときには専門家への相談もしながら会社としての決断をしていただければと思います。