入社前研修の賃金について③
弁護士 小島梓
これまでのコラムでご説明してきましたように、入社前研修の内容を検討した結果、参加者である内定者は「労働者」となりうるとなった場合は、内定者に賃金等の対価を支払う必要がでてきます(「入社前研修の賃金について①」「入社前研修の賃金について②」を合わせてご覧ください)。
では、この賃金はどのように決めればよいのでしょうか。
まずは、内定者との間で、入社前研修について別途契約を締結する場合には、当該契約に定められた賃金を支払うことになります。入社前研修の内容から、参加者が「労働者」に該当する可能性が高い場合には、後の紛争を防ぐため、入社後の雇用契約とは別に入社前研修につき書面にて賃金などの基本的な取り決めをした書面を取り交わしておくのも一つの方法です。
仮に契約書等の書面の取り交わしがない場合でも賃金の支払いをしなくてよいわけではありません。法律によって、「労働者」(労働基準法9条)に該当する場合には、最低賃金以上の金額を支払う必要があることになっています(最低賃金法2条1号、同法4条1項)ので、「最低賃金」の金銭を支払う必要があるということになります。労働の対価として支払うことを示しておけば、名目自体は、研修手当等でも構いません。
以上の次第ですので、「研修だから対価の支払い不要」と軽々に判断するのは法人としてはリスクがあります。加えて、場合によっては、入社前から内定者に法人に対する不信感を植え付けることになりかねません。
法人としては予算の問題もありますので、研修を行う場合には、内容をよく吟味し、仮に「労働者」に該当するような内容になりそうな場合は、研修手当等の対価を支払うことができるのか否かをよく検討いただくことが重要かと思います。