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歯科医の診療拒否についての裁判例

弁護士 幡野真弥

 歯科医師は、診療治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、診療治療を拒んではならないものとされています(歯科医師法19条1項)。歯科医師に課されるこのような義務を応招義務といい、医師や獣医師も同様の義務を負っています。

 東京地裁平成29年2月9日判決は、インプラント治療に関する裁判例です。この裁判例では、説明義務やインフォームドコンセントが争点となりましたが、他に、歯科医による診療の拒否に正当な事由があったかどうかも争点となっていました。
 今回は、診療を拒否する正当な事由についての判断部分のみご紹介します。
 裁判では、以下に掲げる事実が認められました。

・患者は、担当歯科医や歯科医院の職員から、喫煙はインプラント治療において骨結合不全を起こすことがあるため控えるようにと再三にわたって注意されていたにもかかわらず、煙草を1日1箱吸ってしまうなど、診療上の指示を守らないことがあった。

・担当歯科医や歯科医院の職員に対し「てめえうそついてんじゃねーよ」「私がそういう話で契約したんだから、やれよ」「最初の時に出来ると言ったことがなぜ出来ないの!!?サギじゃん!!!」「プライドもってやって下さい。△△の社長に、『おたくの載せてる歯医者こんなことやってます』って言ってやろーか」などの暴言を繰り返していました。

・インプラントの治療は、上部構造の装着完了まで実施されていました。

・患者は、支払を拒否する客観的に合理的な事情もうかがわれないのに、主観的な不満を理由として支払を拒否することが複数回ありました。

これらの事実から、裁判所は、歯科医が患者の診療を拒否したことには「正当な理由」があると判断し、診療拒否は不法行為とならないと判断しました。

 診療を拒否する正当な事由があるかどうかは、明確な基準はなく、あくまで個別的な判断が必要になります。歯科医だけでなく、医師や獣医師にも応召義務はありますので、今回の裁判例は応召義務について考える際に、参考になります。