columnコラム

裁判例 医療 獣医師 歯科医師

初期の虫歯に対する治療について説明義務違反が問題となった裁判例

弁護士 幡野真弥

 東京高裁平成31年1月16日判決をご紹介します。
 原告は、女性の患者であり、歯周病検査と歯石除去を目的として受診しました。歯科医は、診療中に初期の虫歯があることを発見し、歯をわずかに削り、レジンを充填するという治療を行いました。
 原告は、虫歯を勝手に治療されたと訴え、裁判になりました。この治療につき、インフォームドコンセント(説明と同意)があったかどうかが本件の主要な争点です。
 
 第1審は、歯科医による説明がなかったとの事実を認定し、30万9262円及び遅延損害金の賠償を命じました。
 控訴審では、判断が覆り、歯科医による説明と患者の同意があったという事実を認定しました。
 控訴審裁判所は、「歯科医師は,身体侵襲を伴う医療行為の実施前に,患者に対して,当該医療行為について,その目的,効果及びリスクに応じて相応の説明を行い,同意を得る義務を負う。」と一般論を述べつつ、「第1審被告(※歯科医のことです)は,歯石除去治療中に本件歯のう蝕(C1。いわゆる初期の虫歯)を発見して,う蝕が疑われるので少し削ってレジンを充填すると説明し,これに対して,第1審原告(※患者のことです)は質問,異論,反論を述べず,治療の中止を求める言葉や動作もなかったのであるから,説明と同意があったものというべきである。本件治療の内容に照らし,リスクや予後についての説明が不可欠であったとはいえない。また,第1審原告の主要な目的が歯周病検査と歯石除去であったとしても,それ以外の治療を明示的に拒否していたわけではないし,本件治療の目的は初期の虫歯という軽度の疾患の治療にすぎない。そうすると,第1審被告は,歯科医師としての説明義務を果たしたものと解される。」と判断しました。
 また、患者は、治療の後日、第三者を伴って来院し、歯科医と面談を行いましたが、その際に歯科医は説明と同意がなかったことを自認しているようにみえる発言をしてしまっていました。この発言について、控訴審裁判所は、「(第三者が)強い口調による抗議と追及を中止しないため,とりあえずその場をおさめるために,自認するかの発言が出たものとみるのが無理のないところである。自認しているようにみえる部分を重視することは適切ではない。歯科医師としては,軽度の治療であったために,あらたまったていねいな説明はしておらず,患者側からコミュニケーションが不十分であったと強く言われたときに,直ちに反論しにくかったものとみられる。また,真相を説明してもその場がおさまらない雰囲気のもとにおいては,反省の弁を述べて深刻な紛争の発生を防止し,早期に円満に解決するということも,抗議に対する応急的な対処としてはありがちなことも考慮すべきである。」と評価しており、参考になる判決です。